「どっちの勝ち ?(Who's Got Game?)」トニ・モリスン&スレイド・モリスン著 みすず書房
イソップ 童話の「アリとキリギリス」「ライオンとネズミ」「旅人と蝮」をもとに話をもっと深く掘り下げて描いた絵本。小学生から読める。
「アリとキリギリス」ですよ。もうそれ聞いただけで、ああー俺の人生キリギリスだったよな・・・とか連想する人もいるかもしれない。着実に働いて豊かに暮らすアリと遊びまわって無一文になって死んでいくキリギリス、というよく知られたあの話だ。残る二篇もさらに深い。童話の多くはそうだが、これらも信頼と裏切りを描いている。それだけ人間にはそのふたつがつきまとうってことか。本を閉じて色んなことを考える。それこそが読書の与えてくれる豊かな時間なのです。読んでいるときのドキドキ感だけじゃない。
(作者のトニ・モリスンはアフリカ系 米国人で女性なんだけど、最後まで読んでそれを知ったとき驚いた。こういう本を書く人はスノッブな感じの痩せてメガネをかけた白人男だと勝手に決めていた。なんたる偏見。恥ずかしい)
アリは堅実だけど嫌な男だ。でもキリギリスだって身勝手で、もしこういうのが友人にいたらあまり関わりたくない。Who's Got Game? 結局勝ったのはどちらだろう? 人生に答えは出ないことが切ない後味を残す。
とにかく読んだら誰かと話さずにいられなくなる。読む人の年代によって感じるところが全然違うかもしれない。若い人がどう感じたか聞いてみたい。絵本のいいところは短いから何度でも読み返せるところ。どんなふうにも読み解けるところ。オリジナルな解釈をみつけて一人ほくそえむ。