行雲流水~きららのブログ

好きな本のことを中心に、日々の想いを書いてみる

違う風景が見えた。

 子供の頃に帰りたい、と思いませんか? 小学生の頃は良かったよ、あの頃は何も考えず楽しかったなあとか。

 私は子供の頃には全く帰りたくない。むしろ嫌だ。あんな日々には帰りたくない。

 人間というのは単純なもので、「あの頃がいちばん楽しかった」という人は相対的に「それにひきかえ、今は楽しくないなぁ」となる。でも私は「今が一番」であり、子供時代や若い頃のはじけるような楽しい思い出は少ない(とはいえ闘病で苦しんだとか本当の意味で辛いことがあったわけではない)。どちらが幸せなのかというと難しい。ただ私の場合は過去の面白くなかった日々を今取り返しているのが愉快なのは事実である。

 30代までは自分を抑えて(隠して)生きていた気がする。自分というものをどう表現していいかがわからなかったというか。過剰に恥ずかしがっていたというか。どうせ他人は私のことなんかわからないと思い込んでいたというか。

 カラに閉じこもるというやつだ。普通は思春期を過ぎたら殻を破れるものだけれど、そのカラがなかなか破れなかった万年ウジウジ人間というのもいるのである。思春期に何の刺激もなかった人がそうなりやすいんじゃないか。少なくとも私は思春期に良い刺激も悪い刺激もひっくるめて何もなかった。母親の決めつけ、抑圧もすごかった。

 そのせいかもしれない、人生の思春期、青春が40代になって押し寄せてきた。趣味を通じて本当の自分が少しずつ外に出ていった。

 あの頃の、目の前が明るくなってくる感覚は今思い出しても歓喜に満ちたものだった。いつも行っている建物の天井が低く感じたのも覚えている。それまでは建物が巨大に見えていたのが「なーんだ、こんなに小さな建物だったのか。天井こんなに低かったのか」と驚いたのを覚えている。これまでは抑圧された風景を見ていたのだろう。そのとき、心に新鮮な風がどぉっと吹いてくるような爽快感、頭の上をおさえつけていた重しが取れて身が軽くなった爽快感は今でも覚えている。

 笑う奴は笑え。理解できないという奴は捨てておけ。自分の船に乗り、自分の好きな海を渡ればいい。