行雲流水~きららのブログ

好きな本のことを中心に、日々の想いを書いてみる

性善説

性善説、性悪説、という言葉がある。厳密な哲学的な意味はさておき普段の話の中では「コイツももともとは悪いヤツじゃないんだ、性善説というのが本当なら生まれたときには良い心を持ってたはずだ」などと言うわけです。

でも最近思うんだけど、善ってなんだ。悪ってなんだ。何が正しくて何が間違ってるか、そんなことがわかるのは神様だけじゃないのか。人間に何がわかる?

この人の考えは悪だとか、この人は善人だ、などと他人を決めつけられる言い方に驕りを感じる。自分の考えていることは善であり正であるという無意識の驕り・・・。本当はそんな単純なものではないとうすうす気づいているにもかかわらず。

たとえば「人は良いことをしながら悪いことをするのさ」と池波正太郎は長谷川平蔵に言わせている。

「プリズン・サークル」(坂上香著/岩波書店)

 日本のある刑務所では受刑者同士が互いの体験について語り合うというプログラムが行われている。その様子を10年に渡って取材した著者の書いた本。ここに答えはない。正しいこと間違ったこと、それを教える本ではない。ただ、いろんなことを考えさせる本ではある。

なぜ人は一人ひとり違う環境のもとで生まれてくるのに、同じ価値観や同じ社会で生きることを強いられるのか。なぜ他人の肉体を傷つければ裁かれるのに、他人にどんなひどい言葉を浴びせかけて心を責めさいなんでも罪に問われることはないのか。考えてみれば理不尽なことだ。網からこぼれてしまう人のことを見捨てて良いのだろうか。性善説ではなく掬い上げる物語、私はそちらに期待している。